本当に、最後の晩餐≪十一月一日≫ ―壱―朝から思わしくない天気だと思っていたら、とうとう雨が降り出してきた。 たぶん、起き出したのが、10時過ぎだったろうか。 気にならない程の雨の中外へ出るが、いつものトースト屋が閉まっている。 近くの食品店で、朝食を調達する事にした。 部屋で、朝食を取りながら、アフガニスタンからの旅の記録を思い出しなが ら、書き留める作業に没頭した。 一日に3~4時間くらいのペースで、二日分くらいの旅の記録を整理する。 途中、奥さんが部屋を掃除するために入ってきた。 ガウン姿以外の奥さんを見るのは、これがはじめての事だ。 昼前、俺が置きだす頃には、ドイツ人・カナダ人・アメリカ人の三人はいつ も出かけていて、顔を合わせる事がなかったが、レバノン人の若い男は、い つもベッドの上に座り、何をするでもなくジッと部屋の中に蹲っているのが 常だ。 彼の持っているラジオは性能が悪いらしく、アラビアの放送が良く聞き取れ なくて、時々俺の日本製のラジオを使っていないなら、貸してくれと言って くる。 しかし、チューニングがうまくいかないときは、すぐ戻しにやってくる。 レバノンでは、今内戦状態だということで、彼は逃げ出してきている裕福な 家庭に属しているようだ。 自国の内戦状況を、毎日欠かさず聞いているのだ。 そうしたレバノン人が、ここアテネにはたくさんいると聞いている。 * 小雨の中、ジョセフ・ハウスへ。 買出しは済ませているものの、まだ料理は作り始めていなかった。 今夜は、鍋が調達できないとかで、(鍋を所有していた旅行者が、宿を代えて しまったからだ。)ご飯が出来ず、パンとワイン、そしてスープと野菜炒めが メインメニューになった。 一時間ほどかけて、9人前の料理を作るが、量がすくないみたい。 一人、15DR(≒120円)と予算をケチったのが原因らしい。 酒が好きな連中なので、料理よりもワインで宴会は始まった。 昨日のお客さん二人と、テッシン・小平君・玲子ちゃん、そして和智さん一 家の総勢10名の、最後の・・・・・最後の、本当に最後の晩餐会となった。 明日は、ほとんどの者が、ギリシャを発つ。 羨ましくもあり、可愛そうでもあるようだ。 旅が終わろうとしている。 わが人生最大の旅が・・・・・・。 |